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僕たちはできの悪い商業ポエムのような世界に生きている。

 あるカップルの女性がお風呂に入っている間に、恋人の男性が自分のスマホのホーム画面にこう綴っていて感動したという。
「いつも迷惑かけてごめんね 毎日喧嘩してるけど いくらイラついてもほっておけなくて いつも頭の中には○○(恋人の名前)がいます 毎日LINEに俺のこと書いてくれたり Twitterでも書いてくれてありがとう 見てて嬉しいよ 最後になるけどお前のことが大好きやぞ」
 なんだかGReeeeNの愛唄に出てくる歌詞のようなポエムだ。
「いつも迷惑をかけてゴメンネ密度濃い時間を過ごしたね僕ら2人 日々を刻み作り上げてきた想いつのりヘタクソな唄を君に贈ろう「めちゃくちゃ好きだ」」(GReeeeN 愛唄より)
 どうでもいいが、この記事を書くにあたって初めてGReeeeNのeの文字は4つであることを知った。

 閑話休題。

 やはり恋愛は模倣なのである。商業ラブソングやドラマのラブシーン、世に存在する恋愛のプロセスをいかに模倣し、そこに陶酔できるか。これができない人間、そこに疑問を持ってしまう人間は恋愛には向いていない。
 そして社会に生きるということのほとんどは、模倣であると言える。
 僕たちは職につかねばならない。常識とされることを行い、常識的に生きていかなければならない。先人のライフコース・パターンを模倣しなければならない。こうあらねばならない、という強迫観念が僕たちを支配している。
 しかしそれを愚にもつかない思い込みだ、狭い考え方だと鼻で笑うことは、少なくとも僕には簡単にはできない。
 常識というのは呪術のような前時代的な、本当はどこにも存在しないものなのかもしれない。しかしどうにも僕の周りの世界はそんなにも先進的ではない。少なくとも僕が死ぬまではそうだろう。僕自身もそうしたことが前時代的だと割り切れるほど先進的で、ドライで、強く、実家の太い人間じゃない。だから僕はそうした呪術、盲信に同調し、それらと共生していかなければならない。

 昔は本当のことだけが好きだった。本当のことだけを見ていられたからかもしれない。最近はそうでもない。きっと、本当のことだけでは生きていけなくなったからだろう。
 僕が住んでいるのは田舎だからなのか、周りは僕を放っておいてはくれなくて、僕を矯正しようとする。僕も矯正されたいと願っている。

ワンカップの瓶とこころが砕ける音

 人通りの多い交差点。歳は高校生くらいだろうか。少女は、目を閉じて拳をぎゅっと握り締めた。
「好き……好き……確認、よしっ」
 つぶやくと、前から歩いてくる少年の元に駆け出す。
「よっ」
「お、おお、偶然だな……」
 少女が少年の肩をぽんっと叩いて挨拶する。彼は少し驚いた。くるっと回って彼の前に立ちふさがり、ぎゅっと目を瞑った。
「えっ、どうした?」
 少年が問うと、少女は意を決したように大きく目を開き、思い切り息を吸い込んで叫んだ。
「好きーーーーーー!!!」
 周りの人がみな立ち止まって何事かと注目する。当事者である少年は何が起きたのかわからないというようにきょとんとした顔をしていたかと思うと、次の瞬間、その顔は急沸騰するように真っ赤になった。
 心臓を押さえて返事を待つ少女は、切実さと、不安と、緊張と、いろんな感情がごちゃまぜになったような表情をしていた。
「……お、俺も、好き」
 少年がやっとのことで声を絞り出すと、少女は勢いよく少年に抱きついて、ワンワンと泣き出した。
「よかったぁ~! よかったよぉ~!」
 大泣きしながら少年の胸に顔をうずめる。少年は少女をぎゅっと抱きしめた。
「よくやったぞ!」「いいもの見せてもらった!」
 周りにいた人々は拍手をして彼女たちを讃えた。

 直後、何かが砕け散る音。音のした方には、ワンカップの瓶の破片がバラバラに散らばっていた。

 道端に座っていた小汚い中年男がすっくと立ち上がり、ふらりふらりと少年少女の元へ歩み寄った。ワンカップの瓶を投げつけた主だ。
「お前らが正しいんか……」
 中年の目は据わっている。少年も少女も、その場の誰もが、彼を不意に湧いた異物として見た。
「讃えられて拍手されてるということは、お前らが正しくて、ワシは間違ってるってことなんか! 聞いとるんじゃ! ああ!?」
 突如、男が怒声を飛ばす。少年少女の身体はビクッとして縮こまった。
「やめろよ! 誰もそんなこと言ってないだろう!」
 スーツを着た真っ当そうな男が少年少女と中年の間に割って入った。
「うるせえ!」
 中年はスーツの男を殴り飛ばした。殴られてしゃがみこみ呻く男の腹を、思いっきり蹴飛ばした。
「ぐえっ」
「きゃあ!」
 少女は悲鳴を上げる。中年はすぐに数人の男に取り押さえられ、地に伏せた。
「なんでじゃ! なんでワシはいかんのじゃ! お前らは正しくて真っ当な幸せをつかめて、なんでワシはいかんのじゃ!」
 近くにいた警官も事に気付いて彼を取り押さえる。
 世界の全ては男の敵だった。
「呪ったるぞ! お前らの幸福を呪ったる! ワシはお前らを一生許さん! 絶対にな! ずっとや!」
 中年は泣いていた。少年少女がその場を去っても、中年の絶叫が止むことはなかった。

ニセコイ最終回予想SS! 一条楽は誰を選ぶのか!?

 今まさに俺、一条楽は一世一代の告白をしようとしていた。
 相手は桐崎千棘。アメリカ帰りの幼馴染。綺麗な金の髪に、赤いリボンが特徴的だ。ひょんなことから彼女と偽装恋愛をすることになったのが全ての始まりだった。俺は彼女を愛する演技をしていたが、いつの間にか本気で愛してしまっていたんだ。
「な、なによ、楽。話ってなんなのよ」
「千棘、俺は……お前を……!」
 告白をしようとした、その瞬間、もうひとりの声が響いた。
「待って! 一条くん!」
 息を切らしてこの場に駆けつけたのは、小野寺小咲。中学生のときから俺がずっと好きだった女の子だ。千棘に告白するには、彼女とのこともケリをつけなければならない。
「私、一条くんのことが……」
「ちょっとお待ちなさい!」
 新しい声が響いた。彼女は橘万里花。俺の許婚だ。
「マリー……お前、病死したはずじゃ……」
「楽さま~! 愛の奇跡で復活しましたわ!」
「そうなのか!」
 俺は納得した。愛の奇跡ならそれもあり得る。さらにまたひとり、またひとり。
「実は私も貴様のことが」
「鶫!」
「私、やっぱり先輩のこと諦められないです!」
「春ちゃん!」
「楽ちゃん、私やっぱり楽ちゃんのことを弟のようには思えないよ……」
「ええと、誰だっけ!」
 ニセコイヒロインが大集合してしまった。そう、俺は、この中からたったひとりを選ばなければならないのだ……たったひとりを……
「俺が……俺が好きなのは……」

 突然、真っ白な壁が見えた。いや、これは、天井?
「目が覚めたのね。おめでとう、一条くん。手術は成功よ」
 意識がボンヤリとしている。なんだろう、何が起きているんだ。
「あなたの脳にはとても大きな腫瘍があって、それを切り離すことに成功したのよ」
「宮本……?」
 彼女は宮本るり。なぜか俺に惚れない女。
 どうやら、ここは病院? 俺は何かの病気か事故でここに入院しているようだ。そして、何かの手術が成功したらしい。
「あれが、その腫瘍よ」
 彼女が指を指す方を見ると、培養液の中にピンク色の肉(?)の塊が浮いていた。気持ちが悪い……
「そうだ……俺は、千棘に告白しないと……」
 思い出し、ベッドから出ようとする。
「いないわ。桐崎千棘なんて人は」
 えっ……? 千棘は死んだ……のか?
「始めからいないのよ。そんな人」
 何を言っているのかわからない。いないなら、じゃあ小野寺でいいや。マリーでもまあ。最悪鶫で妥協する。
「やはり、そんな妄想をしていたのね……小野寺小咲も、橘万里花も、鶫誠士郎も、奏倉羽も……あなたが寝言で呟いていた人物は全て、あの脳の腫瘍とあなたのモテたいという願望が生み出した幻覚妄想だったのよ」
 奏倉羽って人のことはあんまり覚えてないけど(キャラ多すぎて)、とにかくそんなはずはない。
「断続的に、意識がなくなる病気だったの。意識のない間、あなたは居もしない人物とのありもしないラブコメストーリーをブツブツと呟き続けたわ。脳の腫瘍が大きくなるにつれ、あなたは現実を離れる時間が増えた。そして一年前、あなたは完全に意識を失って、この病院に」
「そんな……バカな!」
 俺は叫んだ。
「おかしいとは思わなかった? 夢の中で、何か、整合性の取れないことはなかった?」
 そういえば……
「小野寺が告白したのに、俺はありえないタイミングで眠っていて告白を聞いていなかったり、マリーが結婚しようとしててムカつくから友達という言葉でうまくキープしようとしたらありえない感じに成功していたりしてた……登場人物、やたらと小さい頃のことを覚えていない記憶喪失だし……ていうかよく考えたら俺モテすぎだわ……」
 というか何故俺は小野寺の告白を知っているのだ。あのとき眠っていたはずだ。どういうことなんだ。
「そう、ありえない。あなたがずっとラブコメを続けていられる世界。そんな都合の良い世界が、あるはずもないのよ」
 もう……ダメだ……
「くそう! 全部嘘だったってのかよ! あの恋も、この恋も! 全部ニセモノ! ニセコイだったってえのかよ!?」
 慟哭。
「俺をあの世界に戻してくれ! 頼む、なあ、頼むよ! 俺はニセモノの恋でいいんだ! なあ、頼むよ宮本!」
「残念ながら、それはできないわ」
 首を振る宮本。
「……もう、俺に希望は残されていないのか」
「いいえ、諦めるのはまだ早いわ。耳を澄まして」
 耳を? ……聞こえる。何か、聞こえる。
「楽! 一条くん! 楽さま~! 先輩! 一条楽! 楽ちゃん!」
 聞こえる! ニセコイヒロインたちの声が! いったいどこから!?
 声のする方向に目を向けると、そこにはピンク色の脳腫瘍が!
「これは!?」
「奇跡よ……あなたの強い想いに呼応して、脳腫瘍に自我が芽生えたの。あなたの想像をベースとする、全てのニセコイヒロインが統合された人格が、あの脳腫瘍の中に!」
 ドクン、ドクン。ピンク色の脳腫瘍は脈を打っていた。胎動。
「そうか……選ばなくったっていい……お前たちは、初めからひとつだったんだな……」
 俺は脳腫瘍が浮かぶ容器を抱きしめた。
「お前たち!」
 俺は叫んだ。
「ああ、今私は、愛の奇跡を見ているのね!」
 宮本も絶好調だ。
 もう、離しはしない。この脳腫瘍が、本当の恋人。ニセモノの恋は終わり、本当の恋が今始まった。
 ニセコイ、完。

俺がSEALDsに入って安倍を倒す話

 某日某所、世界の首脳などのすごいえらい人たちが一箇所に集められ、世界のこれからを決める会議が開かれていた。今回の議題は、安保法制だった。
「戦争、ヨクナイヨ!」
「デモ戦争、必要ネ!」
 議論は紛糾。皆が大声で叫び合い、このままでは喧嘩が発展して戦争が起きかねない。そんなときだった。

 ジャラーン

 突如鳴り響くギターの音色。この曲は……!
「Imagine(想像しなよ)...all the people(すべての人々が)....Living for today(今日を生きているんだ)...」
 そう歌いながら、俺は各国首脳たちの前に出た。イッツ・ショウ・タイム!
 先ほどまで鬼のような表情で議論していた各国首脳は俺の歌に聞き入り、しんみりとしていた。
「Oh...平和...」
「私、間違ッテタ……ヤッパリ、戦争、ヨクナイネ……!」
 みんなが感動して、みんなの心がひとつになった。
「俺は音楽で世界を救いたい。世界から戦争を無くすんだ。暴力の無い、平和な世界へ」
 俺の夢を語ると、皆が涙を流した。さっきまで争っていた人たちが、ハグをしている。
 しかし、その場にひとりだけ苦々しい顔をして、俺を怒鳴りつける人間がいた。
「こんなこと、認められるか! 安保法案は決まったことなんだ! 世界に戦争は必要!」
「やはり来たか、独裁者安倍晋三……いや、世界中に武器を売って金を儲ける悪の組織『死の売り手』の幹部さんよォ!」
「チッ、貴様! 何故そのことを知っている! ここにいる各国首脳たちと一緒に消えてもらおうか! 来い、自衛隊、警察隊!」
 天上からたくさんの自衛隊兵士と警官たちが降りてきた。あのデモの日、俺たちSEALDsを妨害していた警官たちだ。やはり、安倍の計画に加担していたのか!
「せやっ! うりゃっ! 安倍、あんたの独裁を認めるわけにはいかない!」
 自衛隊や警官隊は元伝説の傭兵の俺の敵ではなかった。千切っては投げ千切っては投げ。
「あ、あれは、伝説の傭兵、『鮮血の平和主義者(ブラッディ・ピースメイカー)』!」
 俺の昔の名を知っているやつがいたか。
「チッ、そんなもの、とうに捨てた名だぜ」
 俺はたったひとりで敵を圧倒していた。
「たったひとりを相手に何をやっている! 貸せ!」
 安倍が自衛隊員のひとりから銃を奪い取り、俺に向けて撃つと弾丸は俺の肩をかすった。
「チッ、さすがにひとりだと分が悪いぜ……!」
 俺のピンチ、そのときドアが大きな音を立てて開いた。
 ドン!
「助けに来たぜ!」
「奥田っ! それに、SEALDsのみんな!」
「さあ、この世界から戦いを無くすためにあいつらをやっつけようぜ!」
 嬉しい加勢だった。共に日本に民主主義を根付かせた仲間である10万人のSEALDsメンバーが駆けつけてくれたのだ。
「奥田、お前がいれば怖いものはないぜ!」
 奥田に背中を預けて戦った。背中を預けて戦える仲間がいる。孤独な傭兵だった俺にはそのことが何よりも嬉しかった。
「後ろから刺してやるぜ!」
 警官のひとりが俺の背後を取った。しかし、そのとき!
 ドンッ!
 強烈なタックルを警官にお見舞いしたやつがいた。
「五郎丸! お前も来てくれたのか!」
 五郎丸は俺に向けて親指を立てた。心強いぜ!
 雑魚はみんなに任せて、俺は安倍と対峙した。
「安倍さんよぉ、あんた、感じ悪いぜ……」
「ひ、ひぃっ! 来るな! 民主主義など、絶対に認められンンン!」
「覚えておけよ。俺たちの民主主義は、お前なんかに絶対負けない!」
 必殺のパンチをお見舞いすると、安倍の頭蓋骨は陥没した。多分死んだ。
「やった! 勝ったぞ!」
 ボスの安倍を倒すと自衛隊や警官隊は撤退していった。
「コンニチハ、私アメリカ大統領デス。感動シマシタ。キミニ世界ヲ代表スル世界大統領ニナッテモライタイ!」
「やれやれ……俺はそういうのには向いてなくってね。ここにいる奥田に任せるとするぜ」
「えっ!?」
 ざわつく会場。
「それに俺はまだまだ世界中を旅していろんな国を救わなくっちゃいけなくってよお」
「でも、俺にはお前の代わりなんて……」
「できるさ! だってお前はひとりじゃない! 10万人のSEALDsの仲間がいるんだから! 俺だってそのひとりさ!」
「はっ、そうか! 仲間!」
 奥田は涙を流して喜んだ。がんばってほしい。
「アリガトー! アリガトー! 戦争無クシテクレテ、アリガトー!」
「じゃあな、アデュー!」
 俺は風とともに去った。

光の少女。第2話。鉄巨人と土方のおっちゃん。

「オーライ! オーライ!」
 外ではトラックに乗った土方のおっちゃんを誘導する声。ここはアパートの一階の一室、俺の部屋だった。俺は扇子で顔をパタパタと仰ぎながら、拉致してきた少女と向き合っていた。
「私を彼の元に返して」
 連れてきてからというもの、少女はずっとこの調子だった。
「あなたじゃダメなの」
 恋い焦がれた非日常からの拒絶だった。
「知らないも~ん。返せないも~ん」
「ううっ、ぐすっ」
 泣かせてしまった。
 彼女を連れ去って俺が得られたのは非日常ではなく、未成年者略取、軟禁という罪のみであった。もういっそのこと罪を重ね、猥褻行為に及んでくれようか。なんだかムラムラとしてきた。
 しかし俺はそんなことはしない。何故なら、俺はセックスよりも高尚で気持ちのよい行いを知っているのだ。その名も、奥義ゼックス。セックスの完全上位互換技、愛の奥義である。相手に向かって愛を込めて「ゼックス」と叫ぶだけの単純かつ強力な技である。
「ゼックス! ゼックス!」
 俺は両指でハートマークを作り、彼女に向かって叫んだ。
「ヒッ」
 彼女の身体はビクッと跳ね、部屋の隅に寄ってしまった。怖がらせてしまったようだ。気持ちがいいわけがない。俺は性的なことに関しては臆病者の童貞で、攫ってきた相手に猥褻行為などできるわけがなかった。
「そろそろ観念して話しておくれよ。君が何者なのか、君の目的は何なのか。あの眼鏡の冴えない男は今ごろ家に帰って昨日のことなんか忘れているよ。さあ、俺を君の世界へ連れて行ってくれ」
 刺激しないよう穏やかな声で話しかけた。
「あの人のことを悪く言わないでください! あの人は光の勇者様なんです!」
 彼女を激昂させてしまったが、一つ情報を得られた。
「勇者?」
「そうよ! あの人はこの世界を滅ぼそうとする竜王ヴァリグを打ち倒す希望の星、光の勇者様!」
「あの冴えないのがねえ……」
「っ!」
 彼女は強く怒り、俺を殴ってきそうだった。
「悪かった! 悪かった! 訂正する」
 あの冴えない男のことを貶すと激怒するようだ。あまり言わない方が良いな。
 しかし情報は得られた。どうやら竜王ヴァリグというめちゃめちゃ悪いやつがいて、そいつを倒すのが彼女とあの男の使命のようだ。俺もそこに一枚噛ませてもらえれば、いや、むしろ主役の座を奪い、俺こそが光の勇者になってしまえば……! これから始まるファンタジーの予感に血は沸き立ち、胸が躍った。
「……! 来る!」
 彼女は突然スックと立ち上がり、窓の外を見やった。
 俺も窓の方を見ると、遠方から何かが物凄い勢いで近づいてきていた。あと数秒でこの家に突っ込んでくる……! 俺は彼女を庇うように突き飛ばした。
 轟音と共に何かが突っ込み、窓は崩壊。部屋は大惨事となった。逃げなくては……!
 煙幕のようになった埃が晴れると、鉄巨人と言えるような巨大なロボットがそこに立っていた。
「刺客……!」
 きたきたきたきた! 敵の襲来に、不謹慎にも俺のテンションは上がっていた。
「早く! 逃げるぞ!」
 俺は鉄巨人を睨みつける彼女の手を引き、持っていた扇子を鉄巨人に投げつけ、全力で逃げようとした、その時だった。
「待て! シャイニングキック!」
 乱入者は掛け声と共に俺の部屋に現れ、鉄巨人に蹴りを一撃。ズズウンと沈み込む鉄巨人。この男は……
「あなたは!」
 少女は目を煌めかせて乱入者を見た。
「大丈夫だったか?」
 仮面を被っていたが、この声は昨日の冴えない男だった。
「あのあと、不思議な力に目覚めてね。君との接触がきっかけだったようだ」
「勇者様……!」
「話は後だ。とりあえずこの鉄クズを片付けてしまおう。せやっ!」
 追い討ちの一撃。彼の拳は光を放ち、鉄巨人を貫いた。
「おら、おら、オラァ!」
 人間とは思えないほどの速さで繰り出される拳。これが光の勇者の力……!
「ガッ! ギギ!」
 圧倒的に光の勇者の優勢であった。鉄巨人の身体にはいくつもの穴が穿たれ、鉄巨人はまさに鉄クズへと変貌していく最中であった。
「ギギギ……破損率80パーセント……緊急事態ニツキ、ジェノサイドモード ヲ 発動シマス」
 鉄巨人から不穏な音声が流れると、鉄巨人はすごい勢いで立ち上がった。
「なにっ!」
 鉄巨人の目が怪しく光った。
「なるほど、そちらも本気というわけか。ならば、必殺技でケリをつける!」
 光の勇者、鉄巨人、双方とも拳を構える。次の瞬間、稲妻のような一撃を二人同時に放った。
「ギガアアア!」
「くらえっ! シャイニングナックル!」
 直後、爆発。
「勇者様!」
 少女が叫ぶ。いったい、どうなった?
 光の勇者の身体は崩れ落ち、鉄巨人の目はまだ光を失ってはいなかった。
「ぐふっ」
「勇者様!」
 悲壮な声をあげる少女。
 俺は光の勇者が絶対に勝つと思っていたが、負けてしまった。そう、これは現実であって漫画じゃないのだ。正義が必ず勝つなんて決まってはいないのだ。しかしまさか最初のボスに負けてしまうなんて……
「どう……しよう……」
 少女の顔に絶望が浮かぶ。
「ギギ……!」
 鉄巨人はわずかに回復し、動き出した。そして少女は焦り、混乱した。藁をも掴むような気持ちなのか、憔悴した瞳でようやっと俺を見つめ、哀願した。
「助けて……!」
 ここはおそらく、踏ん張りどころだった。ここで頑張れば非日常世界の主人公になれる、はずだった。
 だが胸に去来するのは、あの女友達からメールを受け取ったときと同じ感情。
 俺を歯牙にもかけなかったあの美しい少女は今俺のことしか見ていない。恋い焦がれた非日常は手の届く場所にあり、あとは少女の手を引いて逃げるだけだった。だが、それはできなかった。
 それをして何になるというんだ、面倒臭い。
 とうとう気づいてしまった。非日常なんかでは俺の生に充足をもたらすことは無いのだと。隣の畑が青く見えていただけだ。一歩踏み出してしまえば元の日常となんら変わらない、別のしがらみが増えただけなのだ。美しい光の少女も最近イイ感じになっていた女友達も、何も変わりはしないのだ。結局、死は恐ろしく、俺は死ねばただの土くれになるだけ。人生は見渡す限りの砂漠で、生の意味や価値、幸福などは全て、蜃気楼のようなものだ。
「あ……の……?」
 少女は震えながら、なおも俺を信じて祈るように両手を合わせる。
「ギギギ……」
 鉄巨人がゆっくりと動き出した。
 俺は光の少女にも鉄巨人にももう興味が無くなっていて、全てを捨ててラーメンを食いに行きたかったが、降りかかる火の粉は払わなければならなかった。死は恐ろしく、死にたくないのだ。
「来い」
 少女の手を取って外に出る。外では、土方のおっちゃんたちが昼飯を食っていた。
「なんかデカい音がしたけど、大丈夫か?」
 今トラックから降りてきたおっちゃんが声をかけてきた。これだ。
「借りるぞ」
「お、おい!」
 俺はおっちゃんを突き飛ばしてトラックに乗り込み、少女を助手席に乗せた。そして、トラックを後ろに走らせて充分な助走距離を取った。
「どうするつもりだべか!」
 声を荒げるおっちゃん。俺はアクセルを全開で踏み、フルスロットルで走り出した。
 ドンという音と共に俺の部屋から鉄巨人が出てきた。全速前進。俺はトラックを鉄巨人へと突っ込ませた。激突。轟音。
 鉄巨人はトラックに体当たりされ、俺の部屋の中へと押し戻され、完全に破壊された。
「ギ……ガ……」
 急いでトラックから転がり出る俺と少女。鉄巨人とトラックは炎上し、俺の部屋は炎に包まれた。しかしトラックと鉄巨人は入り口と窓を塞ぎ、俺たちは外に出ることはできなくなった。部屋には一酸化炭素が充満し、息苦しくなってきた。天井はボロボロと崩れ始めた。
 少女は呆然としながらも、ありがとう、と口にした。
 俺は、部屋に落ちていた扇子を広げ、炎上する部屋の中で吟じ始めた。
「人間五十年~、化天のうちを比ぶれば~、夢幻の如くなり~」
 俺は炎上する部屋でただただ敦盛を舞うのだった。

Appendix

プロフィール

雛苺入ってる><

Author:雛苺入ってる><
世界と自身とを交差させる言葉伝えるためのチャンネル

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