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光の少女。第2話。鉄巨人と土方のおっちゃん。

「オーライ! オーライ!」
 外ではトラックに乗った土方のおっちゃんを誘導する声。ここはアパートの一階の一室、俺の部屋だった。俺は扇子で顔をパタパタと仰ぎながら、拉致してきた少女と向き合っていた。
「私を彼の元に返して」
 連れてきてからというもの、少女はずっとこの調子だった。
「あなたじゃダメなの」
 恋い焦がれた非日常からの拒絶だった。
「知らないも~ん。返せないも~ん」
「ううっ、ぐすっ」
 泣かせてしまった。
 彼女を連れ去って俺が得られたのは非日常ではなく、未成年者略取、軟禁という罪のみであった。もういっそのこと罪を重ね、猥褻行為に及んでくれようか。なんだかムラムラとしてきた。
 しかし俺はそんなことはしない。何故なら、俺はセックスよりも高尚で気持ちのよい行いを知っているのだ。その名も、奥義ゼックス。セックスの完全上位互換技、愛の奥義である。相手に向かって愛を込めて「ゼックス」と叫ぶだけの単純かつ強力な技である。
「ゼックス! ゼックス!」
 俺は両指でハートマークを作り、彼女に向かって叫んだ。
「ヒッ」
 彼女の身体はビクッと跳ね、部屋の隅に寄ってしまった。怖がらせてしまったようだ。気持ちがいいわけがない。俺は性的なことに関しては臆病者の童貞で、攫ってきた相手に猥褻行為などできるわけがなかった。
「そろそろ観念して話しておくれよ。君が何者なのか、君の目的は何なのか。あの眼鏡の冴えない男は今ごろ家に帰って昨日のことなんか忘れているよ。さあ、俺を君の世界へ連れて行ってくれ」
 刺激しないよう穏やかな声で話しかけた。
「あの人のことを悪く言わないでください! あの人は光の勇者様なんです!」
 彼女を激昂させてしまったが、一つ情報を得られた。
「勇者?」
「そうよ! あの人はこの世界を滅ぼそうとする竜王ヴァリグを打ち倒す希望の星、光の勇者様!」
「あの冴えないのがねえ……」
「っ!」
 彼女は強く怒り、俺を殴ってきそうだった。
「悪かった! 悪かった! 訂正する」
 あの冴えない男のことを貶すと激怒するようだ。あまり言わない方が良いな。
 しかし情報は得られた。どうやら竜王ヴァリグというめちゃめちゃ悪いやつがいて、そいつを倒すのが彼女とあの男の使命のようだ。俺もそこに一枚噛ませてもらえれば、いや、むしろ主役の座を奪い、俺こそが光の勇者になってしまえば……! これから始まるファンタジーの予感に血は沸き立ち、胸が躍った。
「……! 来る!」
 彼女は突然スックと立ち上がり、窓の外を見やった。
 俺も窓の方を見ると、遠方から何かが物凄い勢いで近づいてきていた。あと数秒でこの家に突っ込んでくる……! 俺は彼女を庇うように突き飛ばした。
 轟音と共に何かが突っ込み、窓は崩壊。部屋は大惨事となった。逃げなくては……!
 煙幕のようになった埃が晴れると、鉄巨人と言えるような巨大なロボットがそこに立っていた。
「刺客……!」
 きたきたきたきた! 敵の襲来に、不謹慎にも俺のテンションは上がっていた。
「早く! 逃げるぞ!」
 俺は鉄巨人を睨みつける彼女の手を引き、持っていた扇子を鉄巨人に投げつけ、全力で逃げようとした、その時だった。
「待て! シャイニングキック!」
 乱入者は掛け声と共に俺の部屋に現れ、鉄巨人に蹴りを一撃。ズズウンと沈み込む鉄巨人。この男は……
「あなたは!」
 少女は目を煌めかせて乱入者を見た。
「大丈夫だったか?」
 仮面を被っていたが、この声は昨日の冴えない男だった。
「あのあと、不思議な力に目覚めてね。君との接触がきっかけだったようだ」
「勇者様……!」
「話は後だ。とりあえずこの鉄クズを片付けてしまおう。せやっ!」
 追い討ちの一撃。彼の拳は光を放ち、鉄巨人を貫いた。
「おら、おら、オラァ!」
 人間とは思えないほどの速さで繰り出される拳。これが光の勇者の力……!
「ガッ! ギギ!」
 圧倒的に光の勇者の優勢であった。鉄巨人の身体にはいくつもの穴が穿たれ、鉄巨人はまさに鉄クズへと変貌していく最中であった。
「ギギギ……破損率80パーセント……緊急事態ニツキ、ジェノサイドモード ヲ 発動シマス」
 鉄巨人から不穏な音声が流れると、鉄巨人はすごい勢いで立ち上がった。
「なにっ!」
 鉄巨人の目が怪しく光った。
「なるほど、そちらも本気というわけか。ならば、必殺技でケリをつける!」
 光の勇者、鉄巨人、双方とも拳を構える。次の瞬間、稲妻のような一撃を二人同時に放った。
「ギガアアア!」
「くらえっ! シャイニングナックル!」
 直後、爆発。
「勇者様!」
 少女が叫ぶ。いったい、どうなった?
 光の勇者の身体は崩れ落ち、鉄巨人の目はまだ光を失ってはいなかった。
「ぐふっ」
「勇者様!」
 悲壮な声をあげる少女。
 俺は光の勇者が絶対に勝つと思っていたが、負けてしまった。そう、これは現実であって漫画じゃないのだ。正義が必ず勝つなんて決まってはいないのだ。しかしまさか最初のボスに負けてしまうなんて……
「どう……しよう……」
 少女の顔に絶望が浮かぶ。
「ギギ……!」
 鉄巨人はわずかに回復し、動き出した。そして少女は焦り、混乱した。藁をも掴むような気持ちなのか、憔悴した瞳でようやっと俺を見つめ、哀願した。
「助けて……!」
 ここはおそらく、踏ん張りどころだった。ここで頑張れば非日常世界の主人公になれる、はずだった。
 だが胸に去来するのは、あの女友達からメールを受け取ったときと同じ感情。
 俺を歯牙にもかけなかったあの美しい少女は今俺のことしか見ていない。恋い焦がれた非日常は手の届く場所にあり、あとは少女の手を引いて逃げるだけだった。だが、それはできなかった。
 それをして何になるというんだ、面倒臭い。
 とうとう気づいてしまった。非日常なんかでは俺の生に充足をもたらすことは無いのだと。隣の畑が青く見えていただけだ。一歩踏み出してしまえば元の日常となんら変わらない、別のしがらみが増えただけなのだ。美しい光の少女も最近イイ感じになっていた女友達も、何も変わりはしないのだ。結局、死は恐ろしく、俺は死ねばただの土くれになるだけ。人生は見渡す限りの砂漠で、生の意味や価値、幸福などは全て、蜃気楼のようなものだ。
「あ……の……?」
 少女は震えながら、なおも俺を信じて祈るように両手を合わせる。
「ギギギ……」
 鉄巨人がゆっくりと動き出した。
 俺は光の少女にも鉄巨人にももう興味が無くなっていて、全てを捨ててラーメンを食いに行きたかったが、降りかかる火の粉は払わなければならなかった。死は恐ろしく、死にたくないのだ。
「来い」
 少女の手を取って外に出る。外では、土方のおっちゃんたちが昼飯を食っていた。
「なんかデカい音がしたけど、大丈夫か?」
 今トラックから降りてきたおっちゃんが声をかけてきた。これだ。
「借りるぞ」
「お、おい!」
 俺はおっちゃんを突き飛ばしてトラックに乗り込み、少女を助手席に乗せた。そして、トラックを後ろに走らせて充分な助走距離を取った。
「どうするつもりだべか!」
 声を荒げるおっちゃん。俺はアクセルを全開で踏み、フルスロットルで走り出した。
 ドンという音と共に俺の部屋から鉄巨人が出てきた。全速前進。俺はトラックを鉄巨人へと突っ込ませた。激突。轟音。
 鉄巨人はトラックに体当たりされ、俺の部屋の中へと押し戻され、完全に破壊された。
「ギ……ガ……」
 急いでトラックから転がり出る俺と少女。鉄巨人とトラックは炎上し、俺の部屋は炎に包まれた。しかしトラックと鉄巨人は入り口と窓を塞ぎ、俺たちは外に出ることはできなくなった。部屋には一酸化炭素が充満し、息苦しくなってきた。天井はボロボロと崩れ始めた。
 少女は呆然としながらも、ありがとう、と口にした。
 俺は、部屋に落ちていた扇子を広げ、炎上する部屋の中で吟じ始めた。
「人間五十年~、化天のうちを比ぶれば~、夢幻の如くなり~」
 俺は炎上する部屋でただただ敦盛を舞うのだった。
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